女性と妊婦の喫煙


街中いたるところに吸殻とタバコ自動販売機がころがる現代。かっこよくタバコを
吸っているつもりの若い女性の姿は、もはや珍しい光景ではなくなってきました。
未成年者と若い女性の喫煙率は上昇の一途をたどっており、20代の女性4人に1人が
喫煙者です。「自立する女性」のイメージ広告で、若い女性客を取り込もうとした
タバコ会社の思惑通りに事は運んでいることになります。

厚生労働省の調べによると「タバコを吸う妊婦」も近年増加してきており、
「妊娠中に喫煙する母親」の割合は約10%と、この10年間で倍増していること
が判りました。特に10歳代の妊婦の喫煙率は34.2%という高さで、これは未成
年者の喫煙率上昇をそのまま反映した数字だと言えます。
さらに、10歳代妊婦に「未婚」という条件を付け加えると喫煙率は80%にものぼる
ことを山形県の産婦人科医が示しました。
また、婦人科を受診する若い女性では、喫煙者ほど「性交感染症」にかかる率が高く、
若年女性の喫煙習慣と生活の規律とは何らかの相関関係がありそうだと、産婦人科
医は警告を発しています。


まず、タバコが女性に対してどういう影響を及ぼすか列挙します。

 1.喫煙は卵巣機能を著しく低下させるため、月経不順、無月経が多発し
   不正性器出血や帯下を多くする
 2.閉経が早く、エストロゲンの低下から骨粗鬆症を引き起こす
 3.喫煙は子宮頸癌や乳癌の発生に強く関与する
 4.喫煙者は非喫煙者の72%しか妊娠能力がない(女性不妊の一因である)
 5.タバコは皮膚を老化させ、シワやシミを増やす
 6.ニコチン依存症が男性より強い(妊娠してからやめようと思っても簡単にやめられない)

また、自分で吸わず、受動喫煙だけでも月経困難症は明らかに増加し、月経痛に悩まされる
女性が増えることが判っています。


次に、妊婦とタバコの関係を考えてみます。
妊婦が喫煙すると、胎盤の血流量が減少し、胎児への酸素や栄養の供給が低下します。
また一酸化炭素が胎児血中に移行して、胎児を更に酸素欠乏状態におとしいれます。
妊婦自身の喫煙においても、妊婦の受動喫煙においても、胎児はタバコの毒にむせび、
酸素不足に泣いている訳です。
二重の受動喫煙を強いられている赤ちゃん。これぞまさに究極の受動喫煙と言えるでしょう。

さて、妊婦がタバコの煙を吸うと、下記のようなでき事が起こります。

 1.喫煙のたびに胎児の呼吸運動が減少、停止する
 2.早産流産が増加する
 3.前置胎盤、早期剥離、出血、破水が増加する
 4.低身長児、低体重児が増加する
 5.こどもの先天異常(心疾患、口蓋裂、斜視など)が増加する
 6.乳幼児突然死症候群(SIDS)が増加する
 7.キレるこどもになりやすい
   (非行、問題行動、暴力、犯罪を犯す危険性が高まる)

いかがでしょうか。
にもかかわらず、妊婦を取り巻く環境は劣悪です。
昨年、ある病院の産科外来で100人の妊婦さんにアンケートを取りました。その結果、
同居家族に喫煙者がいる妊婦は全体で75人にのぼり、夫が吸う家庭は65人。妊婦がいる場所
でも喫煙される家庭環境が最も多く見られたのです。「タバコは吸わない」と答えた非喫煙
妊婦ですら、その69.1%が自宅で受動喫煙の可能性をもち、51.5%が現実に受動喫煙をうけて
いる事実が判明しました。

胎児の発育、そして生まれてからの子供の将来を考えれば、妊婦の喫煙は許されるべきものでは
ありません。加えて、妊婦を取り巻く家族、周囲の人たちも絶対にタバコを吸ってはいけない、
妊婦にタバコの煙を吸わせてはいけないのです。
医療サイドも、妊婦の禁煙指導だけをしているのでは片手落ちです。妊婦とその家族に対し、
きちんとしたタバコの情報を伝え、喫煙防止、禁煙指導がなされるべきだと考えます。







  付録 ≪妊婦のニコチン補充療法≫

 妊婦の禁煙支援でニコチネルTTSを処方するべきか否か?

 1日2〜3本のタバコを吸う女性では、ニコチンパッチから吸収するニコチン量
 の方が多くなり、ニコチンパッチのメリットは明らかではありません。しかし、
 もし妊婦が1日15本以上の喫煙者の場合にはニコチンパッチの使用を考慮すべき
 でしょう。
 何より大切なことは、妊娠前になんとしてもタバコを止めるべきだということです。


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