タバコの経済学
よくタバコは「60%も課税されているのだから,タバコを規制するのなら,
それに代わる財源を準備せよ」と言われます。このタバコ税がすべて他
の有益な事業に利用されているのでしたら、それはごもっともです。
しかし、タバコが無造作に流通しているがため,その損失はタバコ税による税
収をはるかに凌ぐ額となっていることが各種研究で明らかになってきました。
タバコによる損失が,その税だけでは賄えていないのです!
◎厚生労働省所管の研究機関、医療経済研究機構の発表データを示します。
平成11年度の直接喫煙による本人や胎児への影響、及び受動喫煙から
発生した医療費 は●1兆3086億円。(国民医療費の4.3%。直接喫煙によるもの
1兆2936億円・妊婦の直接喫煙で胎児に影響した分は4億円・受動喫煙による
罹患では146億円)、喫煙関連疾患による労働力損失は直接喫煙で
●5兆7216億円(死亡含む)、受動喫煙で●1144億円、喫煙による罹患で合計
●7兆1446億円の損失
◎関連情報:産経新聞 平成14年4月13日「たばこ一箱売れば損失7ドル
(約910円)」USA の米疾病管理センター4月11日発表【たばこ一箱売れるごとに、
関連する医療費の支出や生産性の低下により約7ドル損失、喫煙が原因である
病気の治療費は3.45ドル(たばこ一箱あたり)にのぼる。これに本来の寿命よりも
早く死亡し生産活動に携わることができなくなるとして 3.73ドル、合計7.18ドルとした。】
◎国立がんセンター後藤公彦氏の試算:「環境経済学概論」経済・不経済の判定事例
(朝倉書店1998)
○タバコ産業経済メリット 2兆8千億円●タバコ産業社会コスト 5兆6千億円
年間約3兆円の損失を年間売上タバコ本数3000億本で割って、タバコ1本あたり
10円の国家負担、タバコ1箱の適正価格は600円、と上の論文には書かれています。
もう少し詳細に論文から引用すると、○タバコ産業経済メリット2兆8千億円
(タバコ税1兆9千億円、タバコ産業賃金1900億円、タバコ産業内部留保1600億円、
他産業賃金1700億円、他産業利益等3300億円)
●タバコ産業社会コスト5兆6千億円(医療費3兆2千億円、損失国民所得2兆円、
休業損失2千億円、消防・清掃費用2千億円)
◎後藤公彦「たばこの経済分析」,日本医師会雑誌116:370,1996
(たばこ税19,000億円、日本たばこ産業内部留保1,600億円、日本たばこ
産業賃金1,900億円、関連他産業利益3,300億円、関連他産業賃金1,700億円)、
○上記の合計27,500億円(医療費32,000億円、休業による損失2,000億円、
消防費用/清掃費用2,000億円、喪失国民所得20,000億円)、●上記の合計
56,000億円
◎中原・望月「たばこによる社会的損失」厚生の指標42巻11号、1995
医療費の増加8638億円、入院による損失296億円、死亡による損失22687億円、
火災による財産損失125億円、火災による死亡78億円、火災による負傷2億円、
●合計31826億円どれを見ても,損失に税収がまったく追いついていないことは一目瞭然です。
大雑把に言って,非喫煙者一人が毎年3〜4万円づつ,喫煙者の尻拭いをしている計算です。
ですから、タバコ税でこれら損失を穴埋めするためにはタバコ1箱600〜1000円が必要と
言われるのです。
日本は先進国ではタバコが格段に安く,他に類がないほどタバコ自販機が巷に溢れるため,
未成年者の喫煙と急速なニコチン依存が問題になります。
また,タバコ税にしてもその割合は低いことからも,更なる思い切った増税が必要で,
その結果喫煙率が減り税収が減ったとしても,それはとりもなおさずタバコによる損失も
同時に減ることを意味しているし,なおかつ未成年の小遣いで安易に手を出さなくなる、
いい方向付けができると考えます。
税収の減少と言う狭い視点にとらわれることなく,命を犠牲にしないための方向を
見失わないことが大切だと考えています。
「たばこ事業法」第1条には、〜わが国のたばこ産業の健全な発展を図り,もって
財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする〜
と書かれています。つまり日本では,国民の健康問題などは二の次三の次,
もしくは知らんぷり,ただタバコが売れれば入ってくるその税金が一番大事と宣言して
いるのです。依存性薬物を販売し,中毒患者から巻き上げたお金を慈善事業などにばら撒き、
禁煙運動等を牽制する,これを『マネーロンダリング』といわずなんと呼べばいいのだろうか?
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